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~OB/OGが見たコロナ禍の世界~第6回 アメリカ在住 金春 牧子さん

更新日:2020年10月16日

全世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。

Experimentersでは、そんなコロナ禍を海外で過ごすことになった、EIL高校生交換留学プログラム派遣生たちの体験談に加え、海外で生活をしているOB/OGからのレポートもお届けします。


高校生交換留学プログラムを経験し、それぞれの事情から海外で生活するOBOG達。

お子さんがいる方たちも多く、海外のコロナ禍における子育てという視点も興味深いのではないでしょうか。

ぜひ、派遣生とはまた異なる視点による各国のコロナ禍における暮らしの様子を読んでいただければと思います。


▼これまでの記事はコチラ!



今回は、アメリカ在住の金春 牧子(1996年イギリス派遣、東京都出身)さんからの報告です。

 

■滞在地域と在住歴

夫の出身地であるアメリカ第3の都市のシカゴの郊外に住んでいます。出産後東京で保育園に子供を預けられずに私が復職できる見通しが立てられなかった事を機に、子供の教育のことも考えて数年前に移住して来ました。


■家族構成

夫と息子が2人です。


■滞在地域のコロナに対する変化

1月、2月、対岸の火事という感じでした。中国のもの、アジアのものといった印象だったのでしょう。アメリカのメディアではまだあまり大きくは取り上げられておらず、日本のニュースを見ている私だけが情報を多く持っているという状態でした。英語ではCOVID-19(コウビッド・ナインティーン)と呼びますが、WHOがこの名称を公表したのが2月11日で、その言葉もまだ定着していなかった時期です。

3月、急展開。 はっきりと時期は覚えていませんが、確か2月下旬あたりから西海岸や都市部で感染者が増えているようで、アメリカでも情報が早い人たちや大手の企業中心に緊張が走っている状態。大手IT関連企業が早くも在宅勤務に切り替えたことがニュースになっていました。早めに春休みに入る大学が増え、公立学校もそれを追う形でお休みに。ヨーロッパの感染者が増え、アメリカでも第1、第2の都市を含むカリフォルニア州、ニューヨーク近辺の感染者が増え、バスケットボールの選手や著名人も感染した人がではじめ、スポーツ関連の団体が試合のキャンセルを決めたのもこの時期で、危機感が一気に上がっていきました。シカゴでもアイルランド系のSt Patrick's Dayという日のイベントがキャンセルに。毎年シカゴ川が緑に染色されるので有名なのですが、当然人も多く集まってしまうので、やはりとは思いつつもみんな残念がっている様子でした。それでもスーパーや、日常生活に関わるところでは営業が止まっているところもなく、基本的には表向きには普通の生活でした。

事態が一転したのは3月中旬。WHOが3月11日にパンデミックに認定したことを公表し、アメリカも3月13日に国家非常事態宣言を出しました。金曜日のことでした。それ以前にもトイレットペーパーや消毒用アルコールが品薄になってきている事は感じていましたが、緊急事態宣言の当日は自宅待機のストック需要でスーパーの棚がほぼすべてガラガラになりました。私が住んでいるのはシカゴの都市部ではなく、シカゴの郊外であり、アメリカの郊外ということは、こちらで小さいスーパーであっても、日本の基準からすると巨大スーパーのレベルです。通常は山ほどものが積み上がっているのですが、かなりの棚がきれいになくなるという現象が起こりました。店員さんに聞いたところ、こんな事前代未聞、とのこと。牛乳、卵、小麦粉がなくなっていて、困ったなと思いましたが、ブリーチ、アルコールの品薄はまだ続いていますが、全般的な在庫不足ははその後すぐに解消されました。街中にも、それまでは風邪をひいていてもマスクをするという習慣が0の国だったのに、マスクをする人を多く見かけるようになりました。

(写真)スーパーにて、普段は山積みになっているトイレットペーパーと水、乳製品の棚が空になっている様子


3月16日には10人以上の集会の禁止、レストランの営業停止、3月21日にはイリノイ州でもStay-at-Home Order(自宅待機命令)が出て、ライフラインを維持するために必要不可欠な仕事以外は在宅に切り替わり、それまでは通わせる家庭が減っていたとはいえ、空いていた保育園も閉鎖になりました。

4月〜5月、正直この辺りは感染の情報収集したり、状況を緊張感を持って見守っていた感じで、あまり詳しく覚えていませんが、オンラインショッピングですらも、配送に時間がかかるなど、社会全体が混乱していた時期だったという印象です。アジアではどんどん収まり、ヨーロッパとアメリカがコロナの感染の中心に。とは言え、都市部が中心で、私の住んでいる郊外の地域は感染者も少なく、マスクをし始める人が増えてくれて、少し安心感が出始めました。

5月末月、経済活動再開に向けて動いている最中で 黒人の方を警察官が首を押さえて拘束したことにより窒息死した事件が起きました。各地がBLMの活動で騒然となりました。シカゴもダウンタウンで活動に乗じた略奪行為が。ダウンタウンだけでなく、シカゴ郊外の他の地域でも貧しい地域が近いような場所によっては、週末に略奪行為が起こり、再び緊張が走りました。幸い私の地元では平和なBMLの集会はありましたが、何も事件はなく、安心しました。シカゴには西部と南部に一部、発展途上国以下に貧しく、通常から銃撃戦が起こるような危ない地域がいくつかあります。そのあたりで連日、銃での死者が出るニュースを見ました。

6月、コロナ後の生活に慣れていった時期。BLMの運動やそれに乗じる略奪なども数週間で事態は落ちつき、経済活動が再開される部分が増えて、前とは違うけれど多くのお店が空き、前の生活に近い感じに。イリノイでもマスク着用が義務化されました。それまでも食品や生活必需品は問題なく手に入っていたので、困っていませんでしたが、実は地味に困っていたのがヘアサロンに行けなかったことと、子供の服を買うことでした。ヘアサロンが開き、マスクを着用すること、店内の人数制限を条件にお店も開いたので、数ヶ月の不便が解消されました。

7月、後戻り。完全にアメリカが世界のコロナ感染中心地に…。特にマスクをすることに肯定的でない州を中心にかなり感染が出ているところがあり、シカゴのあるイリノイ州ではそう言った地域から来た場合には14日間の自宅待機措置が取られるようになりました。とは言え、国境もなく、いずれここにも近づいてくるだろうと思うので、時間の問題かなと思っています。8月からの学校再開に大きく期待していたのですが、怪しい雰囲気に。

最初の数ヶ月が一番混乱が大きい時期でした。個人的には今はどこから情報を取ればよいのか、物事の決定順序がわかってきて対応がしやすくなりましたし、地域の雰囲気を見ていても、経済的な面などで困りはするけれど、それぞれがある程度諦めて対応しているといった雰囲気になってきています。


■コロナ禍で、その国の国民性を感じたこと

移民の国であることと地域格差が激しい国なので一概に国民性という事はいえないですが、やはりアメリカの果てしない貧富の格差と、医療制度の弱さを痛感。世界の貧しい国レベルに貧困で危険な地域もあり、裕福な地域もあるアメリカ。医療費が高く、保険料も日本に比べてとても高いため、いい保険に入れる家庭であれば、高いお金を払った上で最先端の医療を受けられますが、そうでない家庭は保険を持てず、病院で緊急でも保険があるかどうか聞かれるという世界です。日本のような点数制度がないため、受信して数ヶ月してから請求書が来るまで何にいくら掛かるかわからない、という世界です。

統計を見ても感染者はわかりやすく貧しい地域に集中しています。今までどの地域が危ないのかということはあまり意識したことがなかったのですが、感染者が多い地域を調べてみるとやはりそういう地域ばかり。貧困・教育水準の低さ・医療問題が常につながっています。コロナウイルスがなくとも、もともとこういったことは問題でしたが、今回それが顕になっています。幸い私の住んでいる地域は教育の良い裕福な地域で、安心ではあるのですが、自分の地域だけ良ければいい話ではないので、考えさせられました。

それから、マスクについて。ダイバーシティーのアメリカで、それでも宗教上やいろいろな理由で口元がきれいに見えることに重きを置くことはアメリカの文化だと言えるのではないかと思います。つまり、アジア各国のマスクをするのが普通の文化とは異なり、アメリカではこれまではマスクは大敵だったわけです。その中で、マスクを皆さんがされるようになったという変化は私には大きな驚きでした。それでも最近、夏からの学校再開に向けて、公立学校でマスク着用が義務化されそうなので、それが嫌で私立に移る人もいると聞き、やはりマスクをしたくないという文化は根が深いなと感じました。

また、こう言っては失礼なのですが、世界の中でもかなり掃除が行き届いている日本の基準からすると、コロナ以前はあちこち非常に小汚い、いや、とても汚い!と感じる場所が多かったのですが、コロナ以降、こちらでも皆さんちゃんと手を洗って、掃除をしてくださっているので、随分前より気持ちよく過ごせるようになりました。やればできたのか、と思い、これは嬉しい変化でした。

やればできるのか、という意味では、当初のスーパーマーケットのレジの対応などもそうです。もともとはだらだらしていて、いい加減で心配なレジも多く、すごく待たされる印象しかなかったのですが、あの時だけはみんなが緊張状態で、レジもものすごい速さで終わっていて関心しました。きっとあの緊急事態で、ベテランの方が集結されたのではないかと思います。そういう必要不可欠なお仕事を支えてくれている方々に心より感謝。


■滞在国と日本の政策を比較して感じること

思ったより厳しいルールが敷かれた事。もちろん、徹底はされていないのでしょうけれど。日本は法律で強制できないということで、お願いされているのに、守っている人が多いところが真反対で考え方に違いを感じました。

アメリカは今年大統領選挙の年です。それもあって、各党がぶつかっているところにコロナ対策問題もあり、自体が複雑になっているところがあります。本当に政治は難しいですね…。政治はみんな表面的には知っているのに、本当に何が起こっているのかは複雑すぎてほんの一握りの人にしかわからないでしょう。

あと、これはアメリカの政策を知っているわけではないですし、日本の政策もそんなに詳しくないので、色々深く言えるわけではないのですが、私の日本の実家が大きな影響を受けています。私の実家は能楽の金春流シテ方の宗家です。能楽の数ヶ月の間の公演がすべてキャンセルになり、今も再開されたものの、入場者数を制限しています。詳しくは知らないのですが、チケットは完売になっても赤字になる公演も多いのではないかと思います。舞台はキャンセルされた際には補助がでるが、コロナ対策をして、入場者を減らして運営した場合には補助が出ないようなことを聞きました。

その中で弟(金春流八十一世宗家)と一番下の弟(一般人)と兄弟3人で相談して、Youtubeに動画を投稿することに決めました。宗家である弟は現代において職業選択の自由がないような形で、人生をかけて伝統の継承をしています。世界で一番長い、650年以上も続いてきた舞台芸術です。それをここで絶やすわけにはいかないと思います。ただ、昔の観覧者の知識を前提にミニマリズムの境地で作られているという特性のため、現代人としては昔の人と同じようには観覧できないという現状があります。もちろん海外の方と同じように音楽として、美術としてだけ楽しむこともできる洗練された芸術ではありますが、日本人としては言葉が聞こえてしまう分、なのになんだかわからないという面でフラストレーションが高い部分が多いので、父と弟の宗家の知識力と、一番下の弟と私の技術力でより多くの方に知った上ですっきりと見ていただけることを心がけたいと思っています。欧米一辺倒だった私達の親の世代に比べて比べて、今の世代は和風好きな方も多く、日本の良いところを見られる世代になってきていると思います。困難をチャンスに!を合言葉にがんばってきたいとは思っています。明治維新でも能の存続の危機はあったようです、今回はそれに続く不遇の時代になることは間違いないと思います。政策としても、他にもいろいろなエンターテイメントがあって、それぞれの方が人生をかけている中で、能楽だけを特別扱いはできないとは思いますので、微力ながらサポートしていきたいとは思っていますが、実家のことながら配慮いただけると大変ありがたいとは思います。


■生活の変化

イリノイでは3月中旬から5月下旬まで、2ヶ月半ほど自宅待機命令が出ていました。外出禁止令ではなくて、人に近づかない限り、散歩は自由ですし、車で移動なので、あまり窮屈には感じませんでした。そもそも郊外なので元々人との距離はとても大きいので、散歩していてもほとんど人と近くことはないところも幸いでした。

仕事は在宅勤務に切り替わり、イリノイで自宅待機命令が出た後2週間ほどは、保育園は子供が少なくなっているものの運営されていたのですが、さすがに2週間ほどして閉鎖になりました。

外で散歩する機会が増えました。ご近所の方と仲良くなりました。シカゴは冬は長くて厳しいので、日が伸びてくる春は一番良い時期です。外が暖かくなってきてから、前からやりたかった野菜づくりを始めたり、子供の誕生日を記念して樹を植えたりと、休憩時間に庭仕事をしたりと、より自然を楽しむ時間が増えました。

(写真)最近散歩している自然公園の中西部のプレーリー


■子育ての視点で大変なことはあった?

初期の段階での対応が各家庭で温度差があり、その時が一番混乱しました。やはり家庭によって方針や対応がどうしても異なるので、子供はなぜ?と思うところが多かったと思います。みんな未知の事態に直面しているから家によって方針が違うから仕方ないんだよ、と正直に説明しました。合わせてウイルスの人へのうつり方の仕組みを説明し、わからないかもしれないけれど、何事にも因果関係があるし、個人個人で考え方は違っていいものだ、ということを伝えるのが結構大変でした。

当初は「子供同士でソーシャルディスタンスを保たせるのは不可能!買い物もなんでも触ろうとするし、目も鼻も口も触ってしまうし!」と思っていましたが、何ヶ月も経って、子供もなれてきていることに気づきました。上の子は触ろうとしないし、手を自分から洗うようになりました。子供の順応力はすごいと思うと同時に、小さいのにそんなこと気にしてしまってかわいそうな気もし、でもそれがコロナ後の生活なのかもと、複雑な気分です。

ただ、とにかくうちは未就学児なので助かりました。低学年のオンライン授業は辛いそうです!それで日本の平均に比べれば元からIT化が進んでいて、うちの地域は低学年はiPad、3年以上はChromebookという学校なので、環境としては整っているとは思うのですが、それでも話を聞いていると、結構つきっきりにならないといけないようなので、うちのような両親共働き家庭には厳しそうです。

今の時代に子供時代を過ごすというには大変だなと思いますが、コロナ前と比較してマイナス面ばかり見ていても仕方方ないので、気持ちを切り替えて、良い面を見ていくしかないかなと思っています。

(写真)裏庭で遊ぶ子供たち


■アジア人に対する差別等は感じた?

私の住んでいる地域はお幸い差別はインターナショナルなオープンな方が多いので、全く感じませんでした。アメリカでアジア系の人が差別的なことを言われたことがニュースになっていたようで、それを見た日本の友達が心配して連絡してきてくれて初めて知ったほど、全く感じませんでした。

アメリカは本当に地域差が激しいので、住む場所は大切です。私が住んでいる地域の方がダイバーシティに理解があるおかげで、とてもありがたい事だと思います。経済的に裕福である地域であれば良いというわけではなく、地域によって色があり、裕福であってもダイバーシティーに寛容でない地域はたくさんあります。教育水準が高く、色々な国から来た人が混ざっている安全な地域を選ぶのが大切だと思いました。


(写真・文/1996年イギリス派遣 金春 牧子/アメリカ在住)

 

いかがだったでしょうか?


文中にもある、能楽金春流のYoutube動画は以下のURLからご覧いただけます。


*能楽金春流(こんぱるりゅう)リモート素謡『鍾馗』(しょうき)

*Youtubeチャンネル『能楽 シテ方金春流八十一世宗家 金春憲和』


EILでは、高校生交換留学プログラム2021度派遣生を募集しています!詳しくは、こちらをご覧下さい。

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