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相手とも自分とも向き合い、自分の言葉を紡ぐ 上村典子(2003年ドイツ派遣)

  • 3 時間前
  • 読了時間: 8分

 これまでに数多くの人たちが高校生交換留学プログラムに参加してきました。OB/OGたちの進路やキャリアは多岐に渡っており、それぞれの分野で活躍し、社会に貢献しています。


 今回インタビューを行ったのは、2003年にドイツ派遣プログラムに参加された上村典子さんです。上村さんは高校留学後もドイツと関わり続け、現在はドイツ語圏の貿易投資振興公社で勤務をされています。今回上村さんに高校時代の留学経験がどのようにその後の歩みに影響を与えたのか伺いました。


交換留学に参加しようと思ったきっかけを教えてください

 高校1年生の時、確か2月くらいだったと思うのですが、学校で掲示されていたポスターが目に留まりました。その年の夏に出発する高校生交換留学プログラムの最終募集のポスターでした。

 「これがラストチャンスなんだ」と思い、その日のうちに両親に選考を受けることを宣言しました。「行きたい」「行くんだ」という気持ちが先行していたので、許可をもらうというよりは宣言に近く、両親も私の勢いに押されて選考を受けることを承諾した形だったように思います。



派遣国にドイツを選んだ理由はなんですか?

 小学生の頃からドイツに関心を持っていました。地図を見れば緯度も同じくらい、人口も同じくらいだと気づき、日本とドイツが近いような印象があったのが原点です。世界の国を調べるという夏休みの宿題でも、ドイツを選んでまとめました。色々調べる中で、同じようだけど違いもたくさんあることがわかり、さらに興味を深めました。高校留学を決めた当時は、サッカーが好きで、オリバー・カーン選手が好きだったこともドイツを派遣先に選んだ理由の1つです。

 英語は小さい頃から学んでいたこともあって、流暢とはいえませんが基礎力は持っていましたし、今後の人生において、英語を学んだり、英語圏に行くような機会はあるだろうと思って、英語圏への留学は最初から考えていませんでした。



高校留学で苦労したこと・大変だったことはなんでしたか?

 留学を決める前にドイツ語の学習歴があったわけではないので、当然ドイツ語には苦労しました。特に最初の3か月は大変だったというか、手探り状態でした。ところが、ある時テレビを見ていたら、ドイツ語がすんなり入ってきたと感じるタイミングがありました。語学力の習得は階段式と言われることがありますが、本当にひゅっとドイツ語力が上がったことを実感できた瞬間でした。


 ドイツ語も大変でしたが、それ以上に大変だったのはドイツのコミュニケーションスタイルです。今の日本の学校教育は私の頃とはまた異なるとは思いますが、私は自分の意見を言うことがあまりない環境で育ってきました。授業中に手を挙げることもありませんでしたし、クラスの中で質問したり、議論したりするようなこともなく、黒板に向かって生徒全員が机を向けて授業を受けていました。

 ところが、ドイツの教室では最初から机が島形式になっていました。生徒同士の意見交換や議論が授業の中に取り入れられているのが当たり前で、手を挙げて発言をしたり、質問することも当たり前でした。逆に質問があることが前提とされているようなところもあり、質問をしないと、「なぜ質問がないの?」と聞かれました。こうした授業スタイルに慣れるのには苦労しました。


 もう1つドイツのコミュニケーションスタイルで戸惑ったのは、会話が直接的だったことです。日本のコミュニケーションスタイルは、オブラートに包んだ表現があったり、行間や空気を読むといったハイコンテクストなスタイルと言われますが、ドイツはその真逆でした。ホストシスターと世間話に近いような話をしていても、議論のようになっていくことがよくありました。「違う、私はそうは思わない」といった発言が、私自身を攻撃しているような、否定されているような気持ちになってしまい、感情的になってしまうことがありました。

 ドイツ人は物事や結論をはっきりさせる傾向がありますし、率直に意見を伝えるコミュニケーションスタイルなんだと理解するまでには時間がかかりました。



高校留学で一番思い出に残っていることはなんですか?

 留学から長い時間が経っていますが、思い出すのはありふれた日常です。学校の昼休みにみんなでスーパーに行き、大きなパンを買ってロッカーの前でザジキというヨーグルトソースをつけながら食べたこと。音楽が好きだったホストシスターと部屋を暗くしてディスコライトを点けて大音量で音楽をかけながら踊ったこと。そんな日常の1コマ1コマが思い出されます。

 短期の旅行だと、非日常として記憶には残ると思いますが、10ヶ月の留学となると、毎日学校に行くことや、犬の散歩、食事、そういった小さなルーティンが積み重なり、日常となって自分の中に蓄積されています。 



帰国から大学進学までの進路選択について

 当初は単位を認定してもらい、高校3年生に復学する予定でした。ところが復学してみると周囲は受験モードまっしぐら、という状況になっていて気持ちが追いつかず、復学から1~2週間してから学校に相談し、高校2年生に戻ることにしました。

 帰国後にOBOG会のイベントに参加した際に、大学生や若い社会人の先輩OBOG達の話を聞く機会があり、自分の進路についても相談しました。2年生の秋くらいからコミュニケーションを専攻したいと考えるようになり、一橋大学の社会学部に進学を決めました。

 大学でも第3言語でドイツ語を選択し、ドイツ語の勉強は継続しました。高校留学で培った語学力がベースになったので、中上級レベルからスタートできました。



これまでのキャリア変遷について教えてください

 大学卒業後に総合広告代理店に就職しました。今とは異なる時代でもあり、非常にハードに働いていました。そんな中、日独協会の存在を知りました。忙しい中でも、協会が実施している語学講座やセミナーに参加をするようになりました。その中で協会が主催する、若者向けの環境や政治について議論するユースサミットというイベントを見つけ、仕事の息抜きで参加をしたのが2015年のことです。この年はドイツでの開催だったのですが、現在の夫がドイツ赴任中でドイツから参加していて、知り合いました。翌年は日本で同じイベントが開催され、その際に再会し、ご飯を食べに行ったりやり取りをしているうちに結婚することになりました。

 夫は、ドイツに本社を構える会社に勤めており、結婚当初はドイツ赴任を終えて日本で働いていたので、しばらくは日本で生活をしていましたが、2021年に再度夫のドイツへの転勤が決まりました。その頃には子どもが2人生まれており、4人でドイツに生活拠点を移すことにしました。


 私は仕事を辞めてドイツに行ったのですが、それまで忙しく働いていたこともあって、急にできたたくさんの時間を持て余してしまいました。最初は現地のハローワークのようなところで、移民のための講座を受けたり、テストを受けてみたりしました。ドイツの歴史や価値観について学び直す経験となり、非常に面白かったです。

 そのまま働かない選択肢もあったのですが、家賃や生活費が高いこと、子どもたちが、他の子どもたちと触れ合える保育園に運良く入れたことなどが重なり、私自身も社会との接点を持ちたいと思い、ドイツで職を探すことにしました。ドイツ語をずっと学び続けてきたとはいえ、ネイティブレベルではないので職探しには苦労しました。そんな中、日本企業をクライアントに持つ技術翻訳マネジメントの会社でポジションが見つかり、ほぼフルリモートで働きました。

 トータルで4年ドイツには滞在し、2025年3月に夫の日本への転勤が決まり、家族で帰国しました。元々勤務していた広告代理店に戻る選択肢もあったのですが、ドイツ語圏の貿易投資振興公社での仕事が見つかり、現在はそこで働いています。


高校留学の経験は今の自分に、どのように影響を与えていますか?

 「チャンスの神様には前髪しかない」という表現がありますが、「今だな」というタイミングで選べるようになりました。退職して夫のドイツ赴任に帯同した時も、抗わずに前向きにチャンスと捉えられたことがその一例です。

 固定観念が薄れたというのもあります。私が18歳の頃には「最初の会社で勤め上げるべき」といった価値観がまだ一般的でした。私自身、元々は転職するようなタイプではなかったと思います。そうした自分の心の中でいつしか凝り固まった価値観や固定観念について、「一度決めたことを途中で決め直してもいい」「変わっていい」と思えるようになったのは留学経験が影響しています。今、私は40歳を目前にしていますが、今こそ軽やかに変わる、一歩を踏み出せるような身軽さを感じています。



留学を考えている高校生へのメッセージをお願いします

 私が高校生の頃とは時代は大きく変化していて、今の高校生はデジタルデバイスを持ち、AIに何でも相談できます。でも、私は生身の人間とコミュニケーションを取ることや、時にぶつかることは大事だと思っています。互いの何が違うから分かり合えないのか、という自分の内側を問われる体験となり、同じ文化の中で過ごしてきた人同士だとなかなか起きません。

 生身の人間同士だと傷つくこともあります。その時分かり合えなくても、10年後に理解できることもあります。人と向き合い、内省し、相手に伝える努力をする。そうした自分の考えを紡いでいく経験を、思春期のうちに積めるとその後の人生や考え方に大きく影響すると思います。

 留学ではなくてもいいかもしれませんが、AIの時代だからこそ、生身のコミュニケーションを重ねる経験を推奨したいと思います。



上村典子さんプロフィール

千葉県出身。

お茶の水女子大学附属高等学校2 年時2003 年夏よりドイツ留学。帰国後、2年次復学を選択し、一橋大学に進学。2010 年総合広告代理店に就職。2021年7 月から2025 年3 月までドイツに滞在し、翻訳マネジメント会社に勤める。2025 年4 月、ドイツ語圏の貿易投資振興公社に入社。現在に至る。



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