EILの奨学金制度の一つ、「EIL留学生奨学金」は、派遣国において交換留学生としての活躍が期待される生徒のための奨学制度です。奨学生の皆さんには、プログラム終了後に体験談を提出いただいています。
本日は、2019年度夏出発の奨学生に選ばれた、フィンランド派遣生M.K.さんの留学体験談をご紹介します!
私は10カ月間フィンランドに交換留学生として滞在しました。きっかけは小学校5年生の時に参加した、区のフィンランド派遣プログラムでした。当時、自ら積極的にフィンランドの子どもたちとコミュニケーションをとるができず、それからずっと話しかける勇気を持てなかった自分への後悔が残っており、いつか必ずフィンランドでリベンジしたいと思っていました。また、その際に目の当たりにした世界トップレベルのフィンランドの教育に深い関心を持ち、フィンランドの学校教育を受けてみたいと純粋に感じたのが留学を決めた理由でもありました。高校3年生で、また受験制度の変革の境で留学を決断するまでには、長い時間がかかりましたが、OGOBに皆さんから、機会があるなら「今しかできない」ことに挑戦するべきだよ、とアドバイスをいただき、留学を決断しました。実際にフィンランドへ行って、学んだこと、得たものは留学に行く前の自分が想像する以上のものでした。
留学のスタート
出発の前日になってもビザが降りず、当日の昼に出発が決まり、空港でビザを受け取るという、当日までいつ自分が出発できるのかわからない状況でした。そのせいもあって、自分が今から留学に行き、10ヶ月間日本から離れるという実感のないまま飛行機に乗りました。コペンハーゲンで行われたオリエンテーションでは、世界中から集まった北欧への留学生と5日間観光やグループワークを行いました。プログラムは英語で行われるので、非英語圏留学に求められているレベルの高さを実感しました。またそこでできたオーストラリアやタイの友達とオリエンテーション後も連絡を取り合い、フィンランド人以外にも友達を作れたことがとても嬉しかったです。
オリエンテーション後は、ホストファミリーと空港で会いました。笑顔で出迎えてくれて、スーツケースを積んで車に乗ってすぐに、なぜかホストファミリーに自分のことをたくさん話したくなって、不思議と本当の家族のような安心感を感じました。その後に訪ねた、おじいちゃんとおばあちゃんも歓迎してくれて、フィンランドでの生活初日にして、本当に幸せな気分でいっぱいになりました。
英語とフィンランド語
出発前からフィンランド語の勉強をしていたものの、現地では何も聞き取れない、話せない状態からのスタートでした。そもそも英語能力でさえ十分でなかった私は、最初の三カ月程は英語と少しのフィンランド語で生活していました。語学力に自信が持てない中で、話しかけるのは相当な勇気が必要であることを改めて痛感し、やはり最初はなかなか自分から話しかけることができませんでした。しかし今回は行く前に自分の名前とSNSのアカウントや趣味などを書いた名刺を用意しました。「今日は絶対10個配る」など毎日目標を決めて行うことで、だんだんと友達を増やしていくことができました。
留学中、1番大変だったことは話す言語を英語からフィンランド語へ移行していくことでした。当然英語の方がスムーズな会話ができるので、英語に頼ってしまいがちですが、そこでフィンランド語の言葉を口に出すことがいかに重要であるかを実感しました。それはマイナー言語だからこそ味わえた、葛藤であったと今は思うことができます。フィンランド語能力を上達させるために、私はホストファミリーや友達に自らフィンランド語で話しかけるようにしました。そうすることで、相手にフィンランド語を学びたいという意思表示ができ、相手もフィンランド語で話してくれるようになりました。特に友達とは買い物中やハイキング中でも会話をしながら、「××はフィンランド語で◯◯だよ」「◯◯は英語で××?」とわからない言葉があるたびに、立ち止まって辞書を引いていました。また間違った文法や言い回しで話しているときに直してくれる家族や友達を持てたことが、フィンランド語を上達することができた一番の理由だったと思います。現地の人々とフィンランド語で会話をする中で、上達したねとたくさんの人が言ってくださり、それが1番のモチベーションとなりました。最初は英語で話していた人や、英語が話せないために間接的な会話しかできなかったおじいちゃんやおばあちゃんと最終的にはフィンランド語で会話のやりとりができるようになったときは本当に嬉しかったです。
フィンランドの教育システムを体験 また現地の高校に通い、IT機器を取り入れたアクティブラーニングを受け、今までには持てなかった教育への新しい価値観を得ることができました。暗記ではなく思考力が重視された授業では、チームワークが多く、プレゼンテーションやビデオレポートの作成などを行いました。日本とは異なる教育システムを実際に体験することができたのは本当によかったと認識しています。また学校ではスペイン語の授業にも励みました。最初は習得できていないフィンランド語でスペイン語を学ぶことに困惑しましたが、クラス内で仲の良い友達ができてから、スペイン語をフィンランド語で学ぶという状況を楽しめるようになってきて、結果的に双方の言語の言い回しや表現を学ぶことができ、留学先でしかできない貴重な体験が出来ました。また学校ではチューターと呼ばれる留学経験のある学校の生徒が、学校生活をサポートしてくれました。学校帰りにカフェに行って近況報告をしたり、森の中で火を焚いたりして、留学経験者だからこそ感じる葛藤などを共有できたことは大きかったのではないかと思います。
留学中大切にしていたこと
私は10カ月間という限られた時間を「一秒も無駄にしない」気持ちで臨み、常に「今しか、ここでしか、自分にしかできないこと」を軸に行動をすることで、様々な経験をすることができました。クリスマス前に行われる、聖ルチア祭ではメインのルチアとして立候補し、フィンランド語の文を読み、仲間と歌を披露しました。当日は学校や老人ホームなどを回って、パフォーマンスを行ったのですが、感動して涙を流していたおじいさんもいて、とても心が暖かくなりました。ホストファミリーや友達の誕生日には折り紙を使って、バースデーカードを作ったり、また休日はホストファミリーと出かけたり、旅行に連れて行ってもらったり、友達と森の中で寝泊りしたり、家では編み物を教えてもらったり、ここには書ききれないほどのフィンランドでしか経験できない、かけがえのない時間を過ごしました。そして移民向けのフィンランド語教室や地域のクラフト教室などに参加することで、自らコミュニティを広げていく楽しさを学びました。特にクラフト教室は、最初からフィンランド語で会話を広げていき、だんだんと会話が理解できるようになったり、受け答えができるようになったのをたくさんの人と関わることで実感し、語学力への自信がつきました。
コロナ禍での留学生活
帰国の3ヶ月程前になって、コロナウイルスがフィンランドでも問題になり始めました。急に留学が終わってしまうかもしれないという不安が生まれ、いろいろ考え込んでしまう時期もありました。滞在を継続するためには日本の家族とホストファミリーの同意が必要で、私は幸い、最後までフィンランドに滞在することができました。学校もオンライン授業に切り替わり、新しい環境での生活が始まりました。最初は戸惑うことも多かったですが、こんな時こそ、今できることをやろうと決めました。行動範囲が限られている中で、近くの森へ犬の散歩をしに行ったり、湖の周りをハイキングしに行ったり、テラスでバーベキューをしたりとできる範囲のことを精一杯楽しむことができました。異例の状況下での留学生活になり、できることが減ってしまったのは事実ですが、家族との時間が増えたり、自然と触れ合う機会を多くもつきっかけにもなったので、私自身この状況をマイナスに捉えてはいません。ホストファミリーもコロナ禍でできることをたくさん考えてくれて、本当に感謝しています。
留学生活を通して、限られた時間の中で1日1日を楽しみ、様々なことにチャレンジをすることの楽しさを知りました。これは留学生活に限ったことではなく、日常生活でも大事にしていきたいと感じました。高校生の自分が体験できるたった10ヶ月間の留学は、私にしかできない最高の経験となりました。私はホストファミリーや友達、エリアコーディネーターやフィンランド語の先生、学校の先生など多くの人に支えられました。だからこそ、こんなにも素敵な留学生活を送ることができたのではないかと思います。留学を支えてくださった全ての方々に感謝しています。本当にありがとうございました。
(写真・文/2019年度フィンランド(夏出発)派遣生 M.K.)
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