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【高校生交換留学体験談】井上咲春さん(アメリカ派遣)第3回

 井上咲春さんは2022年EIL高校生交換留学プログラムでアメリカに派遣されました。EIL留学生特別奨学金生ということもあり、アメリカでの留学生活をお伝えしたいと、レポートを定期的に書いてくれました。


 第3回のレポートでは、留学全体を振り返っていただきました。ぜひお楽しみください!

 

 まず、2022年夏出発の奨学生に選出していただいたことに深く感謝申し上げます。留学前・留学中ともにEILの方々からは様々な形でサポートしていただき、大変お世話になりました。また、私の留学を実現そして成功させるために尽力してくださった全ての方に、心からの感謝をここに記します。


 私は2022年7月から2023年6月まで、約10か月半に渡る留学生活をアメリカ・フロリダ州北部で経験しました。

かけがえのないものとなったこの経験をできるだけ多くの人にシェアしたい!という強い願いの下、私が「どのような想いを持って留学に臨んだのか」「10か月半で何を学んだのか」「学んだことを今後どのように活かしていきたいと考えているのか」という3つのことについて、主に書いていきます。この「いち交換留学生の体験談」が、留学に関心のある方・留学を予定されている方・ご家族や友人など近しい方が留学されている方・留学経験者の方など沢山の人々の参考となり、また留学と全く関りの無い方にも、面白い、興味深いと思いながら読んでいただけたら大変嬉しいです。


第1回・第2回のレポートも掲載して頂いていますので、そちらもぜひ併せてご覧ください!


留学前の想い

 私が留学を志した最大のきっかけは、中学3年生時の修学旅行でした。新型コロナウイルスが長期間に亘って猛威を振るい、国内でさえ旅行はままならない状況だった当時、感染者数が比較的落ち着いたタイミングで行くことができたのです。コロナ禍で制約の多い生活を強いられていたからこそ、その旅行はとても印象深いものとなりました。行ったことのない土地に足を踏み入れ、その地域に住む人々と会話するという、何気ないために日常の中で埋もれてしまっているような出来事が、何だか輝いて見えたのです。

 元々英語が好きな上、国際交流に興味があった私は、この体験を留学に結び付けました。それまで海外に行ったことがなかったのですが、だからこそ、未知の世界を自分の目で確かめてみたいという想いが生まれてきました。

 そして、留学を「目的」ではなくあくまで「手段」であると明示してくれるような夢もできました。それは世界平和への貢献です。留学で得られた一つ一つの経験を活かし、何らかの形で平和な世界を作る為の役に立つのだという将来のビジョンが定まりました。幼い頃から漠然と、戦争に対する嫌悪と平和への憧れを抱いていたので、留学を平和と結びつけることは私にとって自然なことでした。EILの創始者であるワット博士が1932年に世界で最初にホームステイプログラムを始めたのも、異文化の生活体験共有が世界平和をもたらすと考えたからだそうです。

 留学先にアメリカを選択したのは、多文化社会という日本とほぼ対極の性質を持つ国に滞在することで、広い視野を獲得するとともに日本では目にしない光景を見てみたいと思ったからです。また、世界平和という大きなビジョンを持つ者にとって、世界のリーダーであるアメリカでの暮らしを実際に体験してみることはとても有意義に感じられました。

 留学が内定してからは、日本の伝統行事を紹介するノートを作成したり、それまで以上に英語の勉強に励んだり、アメリカ史の勉強をしたりなどして、学校の勉強と並行しながらも自分の出来る最大限の準備はこなせるよう努力しました。

 


10か月半で学んだこと

 勿論、数え切れないほどの新たな学びや発見があったのですが、その中でも印象に残っているものを2点紹介していきます。

 まずは学校の授業についてです。9~12年生までの4学年あるうち、私は10年生(日本の高校1年生に該当します)に属していました。アメリカの高校では、進級あるいは卒業の為に生徒全員が履修そして試験に合格する必要のあるクラスと、生徒個人の興味や関心に合わせて選択できるクラスの2種類があり、例えば私の友達は必修科目としてEnglish、Geometry(幾何学)、Biology(生物)、PE(体育。4年間学校に通ううち1年間のみ取ることが出来る)、ASL(American Sign Languageの略でアメリカの手話の意。私が通っていた学校では、9,10年生はASLもしくはフランス語のどちらかが必修である)を取っていて、選択科目としてEarly Childhood(学校に勤めている先生や事務員の方の子供を預かるところで、このクラスを取っている生徒は小さな子供との遊び方やお世話の仕方等を学ぶ)を取っていました。この一例だけを見ても、日本の高校とは大きく異なるということがはっきりとわかると思います。私の場合は、進級・卒業をしないことを前提として学校に在籍していたので、他の生徒のように進級・卒業の為の科目を取る必要はありませんでしたが、その代わり留学生用のルールが適用されました。それは、自分が受ける6科目のうち3科目は自由に選択して良いが、残り3科目は決められた科目を取らなければならないというものでした。必修だった3科目はEnglish、American History(アメリカ史)、Government/Economics(政治経済)で、自分で選んだ3科目は、Psychology(心理学)、PE(体育)、Yearbook(日本で言う卒業アルバムのような、生徒たちの写真や活動の様子が載っている大きな本を1年間かけて生徒たちの力で創り上げていくクラス)でした。どの授業も非常に面白かったのですが、ここではEnglishとAmerican Historyを取り上げようと思います。

 Englishの授業は全生徒の必修教科で、先述の通り私が所属していたのは10年生でしたが、留学前に受験した英語テストの成績が良かったということで11年生のクラスに参加していました。もちろん、英語を第1言語とする生徒たちを対象に行われる授業なので、日本の英語の授業とは似ても似つきません。むしろ国語の授業を想像していただけるとわかりやすいかと思います。Vocabulary.comというサイトを利用し目にしたことも聞いたこともないような語彙を学んだり、魔女裁判や南北戦争、公民権運動といった歴史的大事件に関わる著名人の詩や物語を読んだり、ACTやSAT(米大学受験の為の学力テスト)の練習問題を解いたり…様々な方法で英語にアプローチしながら、語彙力や読解力、歴史的教養などの多くの技能を身に付けられたように感じます。私のお気に入りだった授業は、夏休み直前の4,5月に受けた「華麗なるギャツビー」(原題:The Great Gatsby)についての学習でした。まず原作をじっくり読み、映画を2本鑑賞して(この作品はアメリカ人に大変人気で、これまでに計5回映画化されているそうなのですが、そのうち2000年に公開されたものと、レオナルド・ディカプリオが主演を務めている2013年に公開されたものを観ました)、最後には作品のポスターを制作し、「もし自分たちが映画のキャスティングをするなら誰を何役にするか」なんていう楽しい妄想もしたりしました。先述したようにアメリカでは非常に人気で有名な「華麗なるギャツビー」ですが、私は留学するまでその作品の存在すら知りませんでした。また面白いことに、原作の本を読んでも映画を観ても、私にとってはほぼ全く、この作品の魅力が分からなかったのです。ただその授業を受けていた時は、かなりアメリカに慣れアメリカ人の性格が分かってきた頃だったので、アメリカで人気を博しているという点には何となく合点がいきました。このことを通じ、私ってやっぱり日本人なんだなぁ。としみじみ実感することができ、そういった意味でもこの授業は興味深かったです。

 American Historyは、歴史好きなこともあり、最も期待していた授業でした。しかし、読解量が多く語彙も難しいうえに、そもそも日本人はアメリカ史に詳しくない場合が多い為留学生は苦労するという話をよく聞いていたので、覚悟はしていました。ですが実際のところは、例えば“Civil War”=南北戦争など、瞬時にはわからないけれど調べれば理解できるし覚えやすいという固有名詞や、日常生活でも目にする機会のある単語が多かったので、躓くことはありませんでした(留学生にとっての難易度は、EnglishやGovernmentの授業の方がはるかに高いと思います)。American Historyを選択するべきか悩んでいる方がいたら、選択することを全力でお薦めします。なぜなら、この授業で学ぶことはアメリカという国をより深く理解することに直結すると考えるからです。恥ずかしながら私は、アメリカで行われてきた人種差別の歴史について、留学前は「奴隷制度があったために現代でも拗れているんだな」くらいの認識しかありませんでした。しかし授業で、黒人・白人間の確執はどのように生まれていったのか、黒人はどれほど長い間社会から不当に差別される境遇に居続けたのか、公民権運動が盛んであった時代キング牧師らはどのようにして彼らの本来持つべき権利を獲得しようとしたのか、といった一つ一つの細かい情報を学んでいくことで、人種差別問題に関する知識量がうんと飛躍しました。また、イギリスからの独立に始まり、次第に増加するAmendment(米憲法の修正事項)によって近代化してゆくアメリカ社会の様子や、恵まれた資源と共に成し遂げた産業革命時の国力の発展など、世界のリーダーとして各国を引っ張っていく存在である現在のアメリカの姿に至るまでの道のりを、自分もその道を辿っているかのように着実に捉えることができました。アメリカの歴史は、古くから文明が発達していた中国やエジプトと比較すると随分と浅いですし、日本と比べてみても明らかに長くはないですが、だからこそ、歴史を辿ることで現在の姿をはっきりと映し出すことが可能になるのかもしれません。歴史を学ぶことの重要性を留学先で実感することになろうとは、思ってもみませんでした。

 私の通っていた高校では、課題や授業内で行うプロジェクト、また出欠の状態などから、それぞれの項目を平均して算出した教科毎の成績が100を満点として付けられ、90以上を取るとAを貰うことができました。学年末に、受けている全ての教科の評価がAである人が表彰されたのですが、私はそのうちの一人に入ることができました。表彰式で名前が呼ばれた瞬間は、心の底から自分を誇らしく思えましたし、一年間の異国での学びに自信を持つこともできました。常に私のことを気にかけてくれ、優しくしてくださった各教科の先生方に、深く感謝をお伝えしたいです。



 「学んだこと」の二つ目には、ボランティア活動について書きます。日本の高校生にとって、ボランティアというと「災害のときの…」「海岸でゴミ拾いとかするやつ…?」などといった感覚で、あまり身近に感じない人が多いだろうと思うのですが、アメリカの高校生にとっては真逆です。なぜならば、大学入試の際、高校時代に行ったボランティア活動の時間数や内容が考慮されるからです。その為日常にもボランティアの機会が溢れており、学校のカウンセラー室にボランティア活動の一覧表が貼ってあったり、“Interact Club”という活動内容=ボランティアのクラブが存在したりします。アメリカを「ボランティア大国」と呼んでも差し支えないと個人的には思います。

 そのような環境だったので、私も複数回ボランティアを経験したのですが、ここにはその中でも特にビッグイベントであった二つを紹介したいと思います。


 一つ目は、World of Nations Celebrationsという国際交流行事に参加したことです。このイベントは、私が滞在していた地域に最も近いダウンタウンであるJacksonvilleで毎年開催されていて、およそ30ヶ国のブースがそれぞれの文化や伝統を紹介しあうというものです。各ブースは、例えば中国ブースなら中国人の方が、イタリアブースならイタリア人の方がといった形で、全て「その国出身の人たち」で運営されていました。私がボランティアをした日本ブースでは、牛丼・焼き鳥などの和食やアニメグッズの販売の他、折り紙や書道などの伝統文化の紹介を行いました。私は日本で10年ほど書道を習っていた為Calligraphyコーナーの担当になり、事前に作っておいた作品を販売したり、その場で注文された文字を色紙に書いたりしました。イベントを通じて多様なルーツを持つ人々と交流できたのですが、国際交流イベントを開催するにあたり30もの国のブースを設けることができるアメリカの「多文化ぶり」に改めて驚かされました。また、中東やアフリカ出身の方など、普段なかなか関わることのできない方たちとお話ししたり、一緒に写真を撮ったりしたことは、非常に貴重な経験となりました。更に、私の書道作品を多くの方から褒めていただけたことで、もっと書道の…いえ書道だけでなく、日本文化そのものの素晴らしさや美しさを海外に広めていけたら、という想いが芽生えるようになりました。



 二つ目は、日本食レストランの店名フォントと内装のデザインを手伝わせていただいたことです。縁あって、そのレストランで働いている日本人の方に私の特技が書道であるということを知っていただけて、それがきっかけでボランティアをやらせていただく運びになりました。具体的には、レストランのフォントを書道でデザインしたり、店内の椅子や壁にも作品を飾らせていただいて、内装にも携わったりしました。日本の昔ながらの定食屋の雰囲気を再現してはどうかという意見を自ら出し、クラフトストアで購入した木板や木製の座席に「カツカレー」「卵サンド」「ハニートースト」といったメニュー名を書いていきました。3月にこのレストランがグランドオープンした際には、自分のアイデアや作品が溢れている場所にお客さんが実際に入るのだと実感して興奮しましたし、何より嬉しかったです。また、日本から遠く離れた地であるアメリカに、こんなにも私の想いが詰まったレストランができるなんて…という意味でも感慨深かったです。


 もう一つ、これらのボランティア活動に関して心に残っていることがあります。それは、この二つの活動について地元新聞社からインタビューを受け、新聞に掲載して頂いたことです。私は留学前、自身の活発な活動を通じて留学先のコミュニティに何か爪痕を残せたらと考えていました。新聞に載ったことでそれが叶えられたように感じましたし、自分が抱いている将来のビジョンや大好きな書道への情熱について語ることは、本当に楽しかったです。学校の友達や先生からも「新聞載ってたね!すごいね!」と言っていただけて、更に嬉しくなったのを覚えています。

 時間的な余裕や恵まれた機会が無ければ実行が難しいボランティア活動ですが、これらの経験を通じそのパワーや魅力に改めて気付かされたので、日本でも新たな出会いを求め積極的に参加していきたいです。



学んだことを今後どのように活かしていくのか

 10か月半は長いようで短く、特に帰国2か月前辺りからは、時計の針が倍速で回っているかのように毎日があっという間に過ぎていきました。限られた時間しか与えられていない交換留学生が、留学中にどれほどの学びを得ることが出来るかは、一日一日をどう過ごすかにかかっていると私は思います。語学の習得プラスアルファの「何か」を実行すること、または身に付けることが交換留学生には求められますが、それを実現するにはある程度の語学力が必要ですから、無論語学の勉強を疎かにすることは出来ません。しかし、それ止まりではいけないのが難点です。「いかにして、語学の習得だけで留学を終わらせないか。」それが交換留学のカギなのではないでしょうか。

 私の場合、留学を「自分の夢を実現する為のステップ」と認識することで、その難点を克服できたと思います。目的が明確であったからこそ、多少辛いことがあっても嬉しいことに目を向けるようにして乗り越えられましたし、一瞬一瞬を全力で楽しもう、そしてより多くのことを吸収しようという心意気で最後まで走り抜けることができました。

そして、交換留学プログラムにおいて私が最も重要視しているものが、帰国後に留学で得た学びをどのように活かしていくかです。最初に述べたように、私の夢は世界平和の実現に貢献することですが、留学前はその夢へのアプローチの仕方がよく分からず、たかが高校生の自分に何が出来るのだろうかと考えていました。しかし、10か月半のアメリカ生活は、私に色々な可能性を見せてくれるようになりました。

 様々なルーツを持つ人々と関わり合いながら社会貢献をしたボランティア活動、自身がネイティブと触れ合うことでより興味が増した英語教育、所々で直面した自分の知識の乏しさ、そして私が何よりも好きな異文化交流。これら一つ一つの経験を基に、帰国後の3か月間で色々なことにチャレンジしましたし、これからも続けていくつもりです。具体的に書くと、夏休み中には、ある大学の国際交流サークルが主催しているプレゼンテーションのイベントに参加し、異文化交流と世界平和というテーマの下で高校生の視点からの留学体験とそれを踏まえた世界平和実現へのビジョンを発表させていただいたり、学校の先輩が立ち上げた英語教育チャリティー団体の運営委員として、9月から始まるオンラインレッスンの準備を進めたりしました。今後も、知識のインプットとアウトプットを繰り返しながら、社会貢献の精神を忘れず、いつの日か夢が叶うことを目指して全力で頑張っていきたいです。



ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございました。再度EILの方々に奨学生に選出していただいたことへの深い感謝を申し上げます。読者の皆様や、皆様に関わる方々の留学経験が、素晴らしいものとなるよう祈っています。



(写真、文:2022年度アメリカ派遣生 井上咲春さん)

 

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​EILの正式名称は「Experiment in Intertnational Living」このサイトは、EILのプログラムを通じて国際交流体験をした人たちを「Experimenters」と称し、その体験やその後にどう活かされたかを紹介するEILのウェブマガジンです。

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