2023年7月よりEIL高校生交換留学アイルランド派遣プログラムに参加していた山本優季さん。今回、ご自身の留学体験を多くの方と共有したいと、レポートを書いてくれました。
EIL独自の奨学金プログラムである、「EIL留学生奨学金」制度に選ばれた優季さん。帰国して数か月が経ち、ご自身の1年間の留学生活を振り返ったレポートをシェアいただきました。ぜひお楽しみください!
はじめに
はじめに、この度はEIL奨学生に選出していただき、本当にありがとうございました。サポートしていただいたEILのスタッフの皆様、共に留学に励んだEILの留学生、支えていただいたすべての皆様に心より感謝申し上げます。
私は2023-24年度、アイルランド派遣の山本優季です。6月1日に日本に帰国し、約10ヶ月間のアイルランドの生活が終わりました。振り返れば昨日のことのように鮮明に輝く、温かな思い出に満ちているアイルランドでの生活。その生活の一部とそこから学んだことについてご紹介できたらいいなと思います。
アイルランドについて
アイルランドは一面が緑に囲まれ羊や牛がすぐそこで生活しているのが見えるような自然豊かな国です。年中雨が降る気候で1日中晴天が続くことは滅多にありません。それでもアイルランドの人はこの雨をlovely Irish weather と表現します。雨が続く天候は日本語でも英語でも悪い天気と表現しますがその表現はアイルランドでは使いません。太陽の光も雨も風もその全てが彼らにとって自然の恵みであり、動物や私たち人間の生きる源。表現の1つからアイリッシュの自然と共存する生き方が感じ取れました。
私のホストマザーは馬と牛を育てる農家で、休日には何度か厩舎の掃除や餌やりを手伝いました。初めは大きな動物の世話をすることに抵抗や恐怖感がありましたが実際に体験すると動物にふれ、命の大切さを学ぶができ自分にとってとてもやりがいのある仕事でした。5月に生まれた馬の赤ちゃんにマザーが私の名前をつけてくれました。「あなたが日本に帰ったら寂しいけどこの子がそばにいてくれたらいつも優季を思いだせる」と言ってくれたのが本当に嬉しかったです。
留学がつないだ縁
私は、Galwayの小さな町の共学の学校に通っていました。私はメキシコ人の女の子と同じ部屋で生活していました。彼女との生活にはたくさんの文化の違いがあり毎日が刺激的でした。また、他の8人の留学生たちが家のすぐそばに住んでいたので放課後や休日はいつも1人の家に集まって話したり、それぞれの国の料理を作ったり、ゲームをしたり、観光に行ったりと長い時間を共に過ごし、思い出を共有することで家族のような心のつながりを感じました。
私は留学が繋いでくれた人との縁に感謝しています。私を本当の家族のように大切にしてくれたホストファミリー、留学生の友達、いつも親切にサポートしてくださった先生方、毎日私を笑顔にしてくれたアイルランドの友達。留学をしていなかったら出会えていなかった私の大好きな人たち。私をここに、私たちをアイルランドに繋いでくれたのは1つの言語かもしれません。しかし、私たちは言葉ではない部分で強く繋がれる。表現方法は言葉だけじゃないと心から感じました。
留学という異文化の中での生活は言葉にしなくては伝わらないことがたくさんあります。自分の当たり前が当たり前ではない環境にいるからです。しかし、アイルランドで強く心が繋がったと思う瞬間はいつも言葉以外の優しさや思いやり、そして共感がありました。私はこの共感力こそが他者理解につながるのだと思います。相手を尊重することは決して統一化ではありません。私たちが持つ違いにこそ最大の価値があり、その上でお互いに共感できる社会こそが本当に価値のあるものだと思います。共感には優しさや思いやりだけではなく知識や教養が必要です。私たちが毎日学ぶ意味はここにあると感じます。どんなに言葉や文化が違ってもつながることのできる人、優しい人は世界中にいます。そんな素敵な気づきこそが私たちの世界をもっと幸せにする鍵だと思いました。「世界には素敵な人がたくさんいて、あなたを助けてくれる人はたくさんいる。そんな素敵なことを伝えたくて私は優季のホストファミリーになったんだよ。」私のマザーはそう言ってくれました。私はこの留学を経て、この考えをできるだけ多くの人に伝えたいと思っています。
留学に行くというのは自分の人生にポジティブな姿勢も持っている行動だと思います。自分の直感を信じ、挑戦し、学び続ける。チャンスを待つのではなく自分から掴みに行く。留学を通して私は自分の価値観について深く考えることができました。世界には親切な人がたくさんいて、意識しなくても感じ取れる幸せがあって、チャンスは待っていてもくると思います。しかし、いくらチャンスが向こうから来たといってもそれに気づかなければ、掴む準備ができていなければそれらは一瞬にして消えてしまいます。どんなに親切な人がいてもその人に会わなければ、その優しさを感じ取ろうという姿勢がなければ人は繋がることができません。幸せの定義は人それぞれですが、自分の五感から、何を感じ取り、何を大切にするかはその人次第で変えられます。本当に大切にすべきものは損得や正悪の価値観ではなくもっと小さく優しいものなのだと感じました。この留学で私は多くの人と出会い、たくさんの経験をし、たくさんのことを感じ、学びました。何を学んだのかを言葉にすると相互理解、優しさの大切さ、人との繋がりの大切さや世の中に正も悪もないことなど行く前からわかっていたことになりますがそれを知識として持っているのかと経験から学ぶのかには大きな違いがあると感じました。留学に行くという私の挑戦はこれらのチャンスを自分で掴み取るための第一歩だったと思います。日本にいても出会える人はたくさんいるし、学べることはたくさんあります。しかし、自分の行動次第でその範囲は大きく変えていける、その繰り返しが自分の可能性を広げることに繋がったと思います。
アイルランドでの生活で得た価値観
私はアイルランドで生活し、彼らの文化を知る中で自分の幸せの価値観について考え直さなければいけないなと感じました。「優季、空や海は青いから綺麗なんじゃなくて変化するから美しいんだよ。」ある日、マザーはいつもよりも暗く荒れた海を見て私にこう言いました。空や海の青さではなくその変化を美しいと感じられる心、動物と共に生活し命の大切さや美しさを感じる心、家族との時間を大切にする生活、ないものに目を向けるのではなくあるものに気づき感謝できる価値観など、頭ではその大切さに気づけても私は今まで生活の中でそれらを大切にできていなかったのではないかと気づきました。
私たちは忙しい生活の中で生きていくためにしなければいけないことに追われ、本来の人生の美しさや幸せを見失い、その大切さを感じるための心を忘れてしまっているのではないでしょうか。今の社会の中でそれらを大切にして生きることは簡単ではないかもしれません。利益や結果を追求することが求められるかもしれません。しかし、複雑に絡み合い、多くの問題を抱えた社会の今の状況を変えられるのは最新技術や科学的な技術だけではないと思います。むしろ、現状を変えるのは人の優しさではないでしょうか。人間らしく生きるための「人間らしさ」とは優しさだと思います。優しさやそれに気づける心が損をする社会になってはいけない、利益のために自分たちの優しさから目を背けてはいけない。私は簡単ではなくてもこの価値観で世界を見ていきたいなと感じました。
アイルランドでの生活を思い返して、いつも心を温め輝く思い出は案外普遍的なものだったりします。涙が出るほど笑ったことでも、どんなに素晴らしく美しい景色を見たことでもありません。他者から見たらたかがそれだけのことと思われるような、そんな普遍的な日常の中にある小さな喜びが私にとって、私たちにとってかけがえのない宝物です。幸せや特別は誰にでもあります。しかし、ありふれた毎日が本当はここにしかないものだと、誰かと過ごせる毎日が特別なことだと気づくことができる人は限られています。ありふれた毎日に特別なものがたくさんあって、そんな思い出が生涯私の心を温めてくれる。その生活を思い出せば頭に浮かぶたくさんの素敵な人がいる。それだけで私はこれからも優しさを持って強く生きていけます。
人は1人で生きていくことができません。みんなが互いに支えあって、繋がって生きています。私たちは自分のためだけに生きることはできないし、社会のためだけに生きることもできません。私と社会のため、私とあなたのためよりも、みんなで手を取り合って「私たち」で生きていきたい。私はこの留学から学んだことを活かしてそんな社会を創造する人になりたいと考えます。
最後になりますが、この留学を実現するまでにサポートしていただいたEILのスタッフの皆様、心配しながらも私を海外に送り出してくれた日本の家族、切磋琢磨しあったEILの友達、アイルランドで出会った素敵な人たち、支えてくださったすべての皆様によってこの素晴らしい経験を得ることができました。心から感謝申し上げます。
(写真、文:2023年度アイルランド派遣生 山本 優季)
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